広州珠江外資建築設計院有限公司(珠江設計)は2019年7月から、“CAD設計”から“BIM設計”への設計企業の生産方式転換の取り組みを開始し、 2021年には、“全社体制でのBIMフォワード設計”を実現したと対外的に発表した。その後も決して後戻りすることなく、引き続き院内のすべてのプロジェクトでBIM設計の道を、より細かく、より深く歩み続けている。
珠江設計の全社体制でのBIM(フォワード)設計の体系と経験の紹介は、対応する公式資料を参照されたい。ここでは、半分は当事者、半分は傍観者という立場で、私がこれまでに見聞きした唯一の事例である、五六百人規模の設計院が企業全体としてすべてのプロジェクトでBIM設計を行っている設計企業というサンプルについて、個人的な観察を述べたい。
まず、本稿に関係するいくつかの名詞・用語を説明しておく。“BIM設計”は、BIMフォワード設計とも呼ばれ、BIMモデルを主要な媒体とし、二次元・三次元を連動させてプロジェクトの設計意図の表現・深化・専門間の協働・図面出力を行い、成果物である図面とモデルの一致性を保証する設計手法である。これに対応して、コンピュータを用い、二次元図面を主要な媒体とする設計手法は“CAD設計”。 “全社体制のBIM設計”とは、設計企業内で大規模かつ日常的・持続的にBIM設計手法を用いてプロジェクトの設計を行っている状態のことである。
1. 珠江設計は、すべてのプロジェクトでBIM設計を使用しているというのは本当だろうか?
私の知る限り、この疑問を抱く同業者は少なくない。その理由は簡単だ。この20年の間に、数多くの設計企業が同じことを試みたが、一つとして成功しなかった。そのため、珠江設計が全社体制でのBIM設計を実現し、すべてのプロジェクトでBIMを用いて設計を行っていると宣言したことに対しては、当然ながら大きな疑問符がずらりと並ぶことになるだろう。
2002年、BIMという用語が世界中の同業者に受け入れられ、まず設計分野で試行錯誤しながら使われ始めた。というのも、本質的にBIMは、設計意図の表現とプロジェクト情報を担うための技術だからだ。国内も例外ではなく、やはり設計企業が最初に使い始めた。その後の発展は周知のとおりであり、あらためて述べるまでもない。私は2003年からBIMの応用研究と普及活動に従事し始め、ちょうどこの過程を余すところなく経験した。
設計企業がBIM設計手法で1件や2件のプロジェクトを実施するのは難しくない。難しいのは、すべてのプロジェクトでBIM設計を採用することだ。この目標を実現するには、3つの条件を同時に満たす必要がある。第一に、設計周期(サイクル)が変わらないこと。第二に、成果物の図面とモデルが一致すること。第三に、追加で増える人工(コスト)の投入を企業が許容できることである。この3つの条件のうち、どれか1つでも満たさなくてよいのであれば、すべてのプロジェクトでBIM設計を実現する難易度は大幅に低下する。
設計期間が長引けば、発注者は同意しないだろう。図面とモデルの情報が一致しなければ、モデルは法的な地位を確立できない。追加の人工投入が過大になれば、企業は立ち行かなくなる。
設計院のすべてのプロジェクトについて、BIM設計の期間を、既存のCAD設計の期間と一致させるには、少なくとも2つの面での保証が必要である。その1つは、BIM設計の過程で遭遇する各種の技術的問題を、遅滞なく解決できなければならないことだ。この点は理解しやすいので、これ以上詳しくは述べない。もう1つは、BIM能力が十分に高い人員の割合が十分に高いことである。設計企業の従業員の技術力は、エンジニアリング能力とBIM能力の2種類に大別できる。設計企業によって従業員のエンジニアリング能力は、それぞれの設計任務のニーズを満たすという点で実質的な差はない。設計企業の全社体制でのBIM設計への転換に真に影響する要因は、十分なBIM能力を持つ人員の割合が低すぎないことにある。低すぎれば、設計企業のすべてのプロジェクトのBIM設計への転換を支えることはできないからだ。珠江設計が全社体制でのBIM設計を開始した時点のこの人員比率は、およそ1:4、すなわち設計者5人のうち1人がBIM能力の比較的高い者であり、残りの4人がBIMで設計を行うのを支援できるというものである。
図面とモデルの一致を保証する道は2つある。1つ目は、モデルをプロジェクトの唯一の情報媒体とし、すべての図面を100%モデルの自動出力結果とすることだ。これは理想的な状態であり、実現にはまだかなりの時間が必要で、いつ実現できるかは現時点では見通せない。珠江設計が採用したのは、現在の技術・管理水準でも実現可能な2つ目の道、すなわち図面とモデルの併存と二次元・三次元の連動であり、専用ツールを開発してCAD図面をBIMモデルから出力し、同時にCAD上での修正を再びモデルに反映して更新できるようにしている。
一方、従来のCAD設計と比べると、BIM設計は、単にソフトウェアツールを変えただけではなく、その成果物も従来のCAD設計より精緻で情報量が豊かである。したがって、BIM設計が、従来のCAD設計より多くの人工投入を必要とするのは正常な現象である。問題は、追加される人工がどれほどかということだ。設計企業が一部の試行プロジェクトやモデルプロジェクトでのみBIM設計を採用するのであれば、その影響は小さい。しかし、すべてのプロジェクトでBIM設計を採用する段階になると、これは乗り越えられない障害となる。珠江設計が全社体制でのBIM設計を始めた初期のプロジェクトでは、追加で約25%程度の追加人工が必要だったが、現在では、各プロジェクトにつき基本的に追加で1名のBIM専門責任者を置くだけで済み、この担当者がプロジェクトのBIM設計に関するすべての企画・管理・技術支援の業務を担う。これは、設計企業が許容できる人工の増加量といえるだろう。
珠江設計は、全プロジェクトの生産方式をCAD設計からBIM設計へと転換したが、そこに問題はまだ残っているのだろうか。答えはイエスである。中にはかなり深刻で、鋭い問題もある。しかし、そうした問題はすべて技術・管理のレベルに属する問題でしかなく、もはや生産方式をBIM設計からCAD設計へと後戻りさせる問題ではない。あたかも20数年前に図板からCADへと転換したのと同じである。
2. 業界全体の設計生産方式がCAD設計からBIM設計への転換を実現することの重要性と可能性
プロジェクトの設計成果物は、データの構造化の度合いによって、おおまかに3種類に分類できる。画像・動画・PDF、wordなどは非構造化データであり、DWGなどは半構造化データ、Excel、BIMモデルなどは構造化データである。
同業者なら誰もが気づいたことだが、6月末に成都で開催された第10回BIM技術国際交流会には、これまでの回と比べて明らかな変化が1つあった。それは、誰もが“データ”を語り、“データ”があれば実現できるさまざまな可能性を展望していたことだ。すなわち、設計と積算の一体化、デジタル建設、スマート建設、インテリジェント建設、都市情報モデル(CIM)、デジタルツイン、スマートシティ、メタバースなどである。これらの展望が挙げる“データ”は、おそらく主として構造化データであろう。そして、現段階においてプロジェクトの構造化データの主要な媒体となるのはBIMモデルである。
図面が法定の成果物である時代には、BIMモデルが担うデータの信頼性は、図面とモデルが一致しているかを判断することによってのみ確定できる。したがって、BIMモデルの作り方は理論上いくつも選択肢があるが、実際には新規プロジェクトでは、“BIM設計、図面はモデルから出力、図面とモデルの連動”という方法以外は、技術的に保証が難しく、経済的にも負担に耐えられない。
もし、すべてのプロジェクトでBIMモデルのデータ信頼性を保証できないのであれば、上述したプロジェクトのモデルデータに基づく各種の応用展望はすべて、源なき水・根なき木のようなものでしかなく、日常の生産的応用の段階に入ることはできず、研究・試験の段階に留まるほかない。したがって、業界全体の設計生産方式がCAD設計からBIM設計へ転換することは、建設業のデジタル化が避けて通れず、必ず解決しなければならない問題なのである。
これまでのところ、他の中堅・大手の設計企業が全社体制でのBIM設計を実現したという公開報道はまだ見当たらない。しかし、人的・物的資源を投入して全面的なCAD設計からBIM設計への転換を模索・実施している企業は少なくない。細部を見て全体を察知するならば、珠江設計がすべてのプロジェクトでBIM設計への転換を実現した全過程の観察から推測できるのは、ある企業においてBIM能力が比較的高い人員の割合が一定程度に達し、BIM設計に必要な各種ソフトウェアツールと設計リソースライブラリが一定程度蓄積され、プロジェクトのBIM設計に追加で必要となる人工の数が一定程度まで低下したとき、その企業が全社体制でのBIM設計を開始する条件はほぼ成熟する。そして、大部分の設計企業がこうした条件を備えたとき、設計業界全体の生産方式が、現在のCAD設計からBIM設計への転換の時期も到来するのである。
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